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情報誌

連続コラム
  〜「暮らしと環境」をめぐる新しいトレンド〜

NPO法人グリーンコンシューマー東京ネット代表理事 永井 進 (法政大学教授)



第55号
(48)環境管理システムと監査の国際標準(ISO14001)の役割

1992年、国連気候変動枠組条約が採択され、ブラジルのリオデジャネイロで地球サミット(環境と開発に関する国連会議)が開催された。経済のグローバル化と地球温暖化という潮流を受けて、国際的な企業家たちは1991年、ISO(国際標準化機構)に企業の環境への取り組みを促進するため、持続可能な発展のための企業の環境パフォーマンスを規準化するための制度設計を要請した。これを受けて、ISOは製品の品質の管理(マネジメント)の国際標準であるISO9001の延長線上で、環境管理システム(EMS)の規格であるISO14001を制定した。その後、1996年に、ISO14001は日本工業規格(JIS)とされ、環境監査、環境ラベル、環境パフォーマンス、LCA(ライフサイクルアセスメント)などの支援規格とともに、14000シリーズとして定着した。

環境汚染に大きな責任を有する企業は、生産の現場において、環境方針を打ち出し、ISO14001の規格に従って、EMSを構築し、外部から監査を受け、継続的にEMSを改善する自主的な取り組みを始めた。今日では、14001のEMS規格を取得する組織は、製造業からサービス業、公共部門にまで広がり、認証組織件数は26,000余りとなっている(2010年12月末現在)。企業は、ISO14001の規格を取得することによって、国際貿易で不利になることを回避し、また、環境報告書を財務諸表とともに公開することによって、当該企業のステイクホルダー(利害関係者)に環境保全の取り組みを広報し、企業の社会的責任を意識するようになった。

企業のISO14000シリーズの国際規格の導入は、環境経営の普及、グリーン調達、エコマークの普及を促すきっかけとなった。また、中小企業も、ISOのEMSに代わって、低廉な環境マネジメント・システムの導入にも道を開いた。一方、この企業の環境に関する自主的規制の取り組みについては、環境情報について一方的な公開で、消費者や住民から要請される環境情報の公開ではない(市民の知る権利の保証ではない)という意見もある。とはいうものの、環境管理システムを社内で構築し、社員の環境への取り組みを広げたことは、環境に配慮する市民の形成にも影響を与え、国際的なスポーツの会場で、ごみを回収する国民性の形成にも一役買っているのかもしれない。

以上



第54号
(47)異常気象

この夏、日本列島は、日中の気温が35度以上になる日が続いたかと思うと、大型台風や集中的な豪雨が西日本を中心に襲った。8月20日には、広島市で、大きな土砂崩れが生じ、50人を超える住民が深夜の土石流によって住居ともども流され、死亡するという惨事が発生した。土砂災害による避難者は15万人にも及んだ。

世界的にも、異常気象は、今や異常ではなくなりつつある。2012年11月のアメリカ合衆国におけるスーパー台風、サンディーの暴風圏は延長1500kmという途方もない大型のものであり、また、同年12月のフィリッピン南部のミンダナオ島に上陸した台風ボーアでは、津波のような大波が集落を襲い、死者1050人、行方不明者838人、被害者総数620万人という甚大な被害をもたらした。

異常気象の背景には、地球の温暖化がある。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出は年々増加し、大気圏の二酸化炭素濃度は上昇し、気温も産業革命以来上昇し、影響が深刻化する2度以内に抑制しようという試みが困難になっている。大気圏と海水面の温度上昇は、干ばつや異常気象を生み出している。

IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の報告書によると、温暖化の影響は、自然生態系、食料、健康の分野で広範に被害をもたらす。日本の事例で言うと、平均気温が2度上昇すると、洪水、土砂災害、高潮によって、年間約10兆円の被害を発生させるという。

温暖化が生態系に与える影響では、イロハカエデが、過去50年で紅葉日が15日以上遅れていることが指摘されている。また、温暖化は、農林水産業にも影響を及ぼす。北海道で栽培される米がブランド米となり、温州ミカンの産地が四国から、関東、さらに東北にまで遡るのではという事態が生じている。また、異常気象は、まちづくりや公共事業にも大きな影響を及ぼす。地球の温暖化を前提に、それに適応・予防するための社会の在り方が求められている。

以上



第52号
(46)廃棄物とリサイクルの現状

去る2月17日、日経新聞の小さな片隅に、川崎市にある昭和電工が、廃プラスチックからアンモニア原料を作るリサイクル設備を増強するという記事を見つけた。それによると、同社は、約30億円を投じて、現在3~4割の廃プラ使用率を年内に6割に引き上げるという。アンモニアは肥料や合成繊維に利用される基礎素材で、液化天然ガス(LNG)や廃プラから水素を取り出して原料にしている。素材の全てを割安な廃プラに転換すると、ライバルの東南アジアのアンモニアメーカーよりも生産コストを下げられるという。 

廃プラスチックの処理は、先ずマテリアルリサイクルが優先的に進められ、昭和電工のケースや、同じく川崎に立地する鉄鋼会社JFEが高炉の還元剤として廃プラを利用するケースは、ケミカルリサイクルと呼ばれる手法である。そして、廃プラは、容器包装リサイクル法に基づいて、全国の自治体等で収集され、中間処理を施した後、リサイクル事業者によって処理される。自治体によっては、廃プラは可燃ごみとして収集し、焼却場で処理し、電力や熱を回収するサーマルリサイクルという形態もあるが、焼却場から排出される二酸化炭素が大量になるという問題がある。

人口43万人の東京都・町田市では、現在、廃プラは燃えるごみとして焼却されているが、2011年4月の『一般廃棄物資源化基本計画』に基づいて、ごみの減量と温室効果ガス削減のために、廃プラを分別収集し、リサイクルすることが、2年間にわたって繰り広げられた市民参加型の「ごみゼロ市民会議」で提起され、現在、そのための施策が進行中である。2020年には、廃プラは全てリサイクルされ、ごみは40%、削減することが計画されている。容器包装プラスチックについては、今後、圧縮梱包施設が建設され、分別・有料収集が企画され、生ごみについては、バイオガス化施設の建設、生ごみ処理機導入によって、全て資源化するとなっている。

一方、ごみ総量の1割余りを発生抑制・排出抑制で行おうという計画は、進んでおらず、中間年(2015年)のごみ量10%削減という目標は達成できない状況にある。生ごみの排出抑制では、水きり、エコクッキングの推進、容器包装プラの発生抑制では、マイバッグ、マイボトル、イベント時におけるリユース容器の利用、レジ袋削減等が求められているが、効果をあがっていない。事業系ごみも増加しており、当初計画の減量とはなっていない。発生抑制も、容器包装プラの分別、有料化、大型生ごみ処理機の普及等を契機にして進む可能性があるが、グリーン・コンシューマーの活動があって、廃棄物資源化計画が進められ、リサイクルの事業化が有効に進めるというのが筋と思うのであるが、なかなかそうはいかないようだ。

以上



第51号
(45)原発震災から3年

東京電力福島第一原発事故から、3年が経とうとしている。50基の原発は全て停止しており、原発を巡る風景は震災前と一変している。原発事故が福島にもたらした被害は深刻で、被災者の救済と地域の復旧・復興は、依然として先が見えない状況である。

実際、誰も人が住んでいない避難区域の面積は1150km2で、東京都の全面積の半分以上となっており、生活手段を奪われた避難者は依然として14万人にもおよび、展望のない避難生活を送っているのが現状である。放射能に汚染された地域で、帰還可能とされた地域でも、実質的には帰還困難とされるのは、既に地域のコミュニティーが崩壊し、家族だけでなく、地域の人々との関係が失われるという“ふるさと喪失”が生じ、雇用や生業が成立しないという人間の基本的な生活条件が失われているからである。また、東電の損害賠償では、計画的避難者と自主的避難者で分断されており、また、賠償を受けている避難者が避難している地域では、旧来の地域住民との間で対立が生じていることが報じられている。こうした避難先の環境激変等によって生じた死亡者(震災関連死)は、避難時の直接死を上回る1600人を越える状況である。

東電の損害賠償額は、内閣府のコスト等検証委員会で、6兆8500億円と想定されており、徐染のコストを加えると10兆円を越えると推計されている。東電は、現在、深刻化する放射能の汚染水問題を解決し、数10年にわたる福島第一原発の廃炉を進めなくてはならない。

また、最近の原発を巡る動きでは、政府が核燃サイクルを見直していることに注目すべきだ。実際、世界の国々が既に取りやめている高速増殖炉開発について、政府はようやく「もんじゅ」の白紙を検討するようになった。安全性の視点から、開発の可能性が疑問視されていたもんじゅが着工されたのは1985年であり、これまで1兆円余りの無駄使いの責任が問われている。それと連関し、使用済み核燃料の再処理事業も見直しが求められる。核燃サイクルのバックエンドにかかる費用や、技術的なフィ―ジビリティが問われており、原発の展望は困難となっている。

以上



第50号
(44)地域活性化に貢献する産直店

8月初旬、長野県諏訪地方の原村で大学のゼミ合宿を行い、2日間にわたって産直店「たてしな自由農園」で顧客アンケートを行い、経営者にインタビューを行った。自由農園は、もともと、芽野市内2店舗で野菜販売をしていたが、近年、観光客の利用が多いエコーライン沿いに新しく店舗を開設し、買い物客を集めている。実際、原村の店舗では、年間概算7億円を超える売り上げがあり、全国の産直の中でも、上位7%に入っている。産直経営では、近隣の農家が野菜を出荷し、店舗で直販されるが、店舗側が15%程度のマージンを受け取るのが通常であるのに対して、自由農園では、それを20%として、返品を行わず、可能な限り農産物を加工している。実際、この店舗では、みそ、漬物、果汁、パン等の加工施設を設け、都会的なレストランも併設している。レストランは、人手不足で昼間しか営業しないというぐらい、人気が高い。

200人を超えるアンケートから、買い物客の80%は県外からであり、中でも東京圏からの買い物客が多く、リピーター客が多いことが分かった。

これは、周辺地域に別荘が多く、別荘族の買い物が多いことが貢献していると思えるが、東京圏からの日帰り客が多数を占めている。新鮮で、安く、さらに、夏の生産量日本一の原村のセロリや、富士見町で主に栽培されているルバーブのような洋風の季節感あふれる高原野菜や地元ワイン等が魅力的なようだ。全国の産直店と比較して、買い物単価は高い。

自由農園は、約300戸の農家と契約し、野菜を仕入れている。第2種兼業農家、小さな畑で育てられた野菜が多いという。専業農家はJAや、地元で保冷車を抱える運送会社を通じて、都会に大規模に出荷される。長野市のデパートで、長年、流通業務に携わってきた自由農園の経営者は、限界的な農業者と安全で新鮮な農産物を求める都会の消費者をつなぐことによって、60名の雇用を生み出し、築城の活性化に貢献している。

以上



第48号
(43)中国の大気汚染とPM2.5

1月初旬から3月にかけて、中国で直径0.5μm以下という微粒子(PM2.5)による大気汚染が連日のように発生し、煙霧と呼ばれるスモッグが北京市をはじめとする主要都市では、1㎥当たり約600μg(マイクログラム)といった、日本の環境基準(35μg)や中国の基準(75μg)を大幅に超える深刻な汚染が続き、大気中の透明度が低下し、飛行機の発着中止、高速道路の一時閉鎖、市民が集塵機購入に殺到する状況になった。

中国の新聞でも連日のように報道され、大気汚染が大きな関心を呼び、3月の全国人民代表大会において、大気汚染対策の強化と財政支出の増額が決定された。PM2.5汚染は、中国では、人口の約半分に当たる6億人に及んでおり、復旦大学(上海)公共衛生学院は、中国誌「財経」最新号で、「大気汚染は29万9700人の都市住民の早死をもたらす」という、2006年の国内113都市への大気汚染の影響を分析した研究結果を伝えた。

中国の大気汚染は、これまでAPIという大気汚染指標(軽度、重度等)が発表され、硫黄酸化物やPM2.5の汚染濃度は明らかにされてこなかった。PM2.5は、北京市のアメリカ大使館が測定結果をインターネットで発表し、中国の市民も関心を持つようになり、政府・共産党も発表せざるを得なくなったという経緯がある。

スモッグ自身は、毎年のように発生していたが、PM2.5のリスクについては、基準値を10μg増えるたびに、急性心筋梗塞などの死亡率が20%(人為的リスクは12%)増えるという欧米の疫学調査等からも明らかになっている。PM2.5の発生源は、自動車排ガス、石炭火力発電所、揮発性有機溶剤などとされるが、自動車排ガスの二酸化硫黄がガス化した硫酸塩等の毒性が指摘されている。中国のガソリンや軽油に含まれる硫黄分の基準は150ppm、日本等の10ppmを大幅に上回っているが、石油天然ガス集団、中国石油化工集団(シノペック)など国有企業は、環境対策をなおざりにし(2016年から硫黄分を削減予定)、公害対策費をガソリンや軽油の価格に上乗せするという発言をしている。インフレに苦しむ市民は、二重の被害を受けるのではと危惧しているようだ。

中国の環境汚染は大気汚染よりもさらに水質汚染、地下水汚染が深刻で、国内でも、清浄な水は3%程度だという報告もなされている。環境対策は、情報公開と中国の経済社会の転換を迫っているといえよう。

以上



第47号
(42)東京都町田市の生ごみ処理機

人口42万人の町田市では、ごみ問題に対する市民の意識が高く、ごみゼロ市民会議が作られ、一般廃棄物の可燃ごみの約47%を占める生ごみの排出量を減らす対策が進められている。市は、コンポストなどの家庭用の生ごみ処理機の購入に対して、現在、最大2万円(購入費の4分の3まで)の助成金を支出している。この制度は1998年から実施され、普及世帯数は7500世帯に及んでいる。また、2005年からごみの有料化が始まり、2008年からは、有料化で得た収入をもとに、大型生ごみ処理機の無料貸出制度が導入された。

対象者は、10世帯以上で構成される団体であり、貸与機関は5年以上で、処理機の設置工事費用やリース費用、電気代は市が負担し、現在、43台、1314世帯が利用している。

昨年末、小山田桜台団地で大型処理機を見る機会があった。生ごみを堆肥化する処理機は、ステンレス製のスマートなもので、生ごみが投入されると一日で堆肥化される。一定の温度の下で、緩速攪拌され、生ごみは原形をとどめず、「堆肥のもと」になっていた。いやな臭いも全く生じていない。「堆肥のもと」は、週に一回程度の頻度で搬出され、農地、家庭菜園等で利用される。町田市では、生ごみの収集量が減り、可燃ごみ量が減り、焼却による二酸化炭素の排出量が減少するという。

大型処理機は20、30、50kgの3タイプがあり、特注品であるため設備コストは高いが、今後、導入が続けばコスト低減が見込まれる。また、堆肥利用が今後とも可能かという問題もあるが、一緒に見学した中国の南京市で、ごみ問題を研究している留学生は、目を輝かして市職員の説明をメモしていた。

以上



第46号
(41)グリーン景気対策の効果

マクロ経済が不況に陥った時、あるいは、景気浮揚が望ましいとき、財政赤字を伴う財政拡張政策が採られる。わが国では、従来、公共事業が主役であったが、近年では、減税政策が行なわれている。しかし、その経済効果については、賛否両論がある。

2008年9月のリーマンショックを契機に、世界は同時金融恐慌に陥った。直後の2009年3月、政府は緊急経済対策の一環としての定額給付金を実施した。同制度は、国民1人につき、12000円、65歳以上、18歳以下の者には8000円が加算され、20000円が支給された。総額は2兆円である。しかし、減税の経済拡張効果は、それほど大きくはなかった。実際、減税から消費支出に向かったのは約2割以下と試算されており、大半が貯蓄の増加に回ったとみられている。なお、アメリカにおいても、2008年に総額1070億ドル(約8兆円)の税還付金が支給されたが、消費の増加は1〜2ヶ月で終了し、個人消費が再び、元の水準に戻ったといわれている。

一方、2009年5月から翌年12月まで実施された薄型テレビやエアコンなど省エネ家電を対象としたエコポイント制度は、経済拡大効果が大きかったことが、2011年6月に、経済産業省によって明らかにされた。エコポイントによる財政支出額は約6400億円であったが、対象の省エネ家電の国内販売額は2兆6000億円増えたほか、小売業や物流業を含めて述べ32万人の雇用維持・創出効果があり、最終的には約5兆円の生産増加をもたらされたと試算された。同時に、環境省は省エネ家電の普及によって、二酸化炭素(CO2)の年間排出量は約270万トン(約55万6500世帯分の排出量に相当)削減したという試算を明らかにした。これに対して、最近、会計検査院が、二酸化炭素(CO2)排出量の削減効果が過大に見積もられているという指摘を行なった。検査院は、削減効果は年間21万トンに過ぎず、制度が新規購入を促した結果、二酸化炭素排出量は年間約173万トンの純増になったという。環境省と検査院の評価がこれほど大幅に異なっていることは異常である。

省エネ製品は短期的には、二酸化炭素排出量を増やすものの、長期的には、省エネ製品への買い替え需要が増えるので、削減すると考えられるが、こうした評価の大きな違いは環境省に対する国民の信頼を大いに傷つける。グリーン景気対策の効果、さらには、環境税導入の効果も疑われかねない。

以上



第45号
(40)東北大震災の瓦礫広域処理と復興資金の行方

2012年6月、消費税増税法案が衆議院を通過し、民主党が分裂した。国等の公債残高が約1000兆円にも達し、世界最高の国債を抱える日本における財政再建は、ユーロ危機に連動する世界経済の状況をみるまでもなく、避けがたい状況である。また、ここ数年の中央政府の一般歳出に占める国際比率は約40%と高く、今年度は、東日本大震災の復興資金のための国債も追加発行され、国債残高の増加は止まりそうもない。

増税には関心を示すものの、われわれは、政府の歳出については十分な情報を持っていない。大手新聞やTVが、震災復興の現状、道路や防潮堤や農林水産業や企業誘致の補助事業等への使途をはじめとする報道をほとんど流していない現状は、官僚による情報統制によるものなのだろうか。復興資金の未消化分が、補正予算として公共事業に使われるという話が出ているのだが。

昨年の3月11日の東日本大震災後、瓦礫の処理が大きな問題となった。莫大な量の瓦礫は、復興を遅らせ、被災地の衛生管理、被災者に過去の記憶を呼び覚ますものとして、早急な処理、特に広域処理が必要という報道が一環として流されてきた。

しかし、被災東北2県(福島県内の瓦礫は他の2県に比較して量が少なく、放射能レベルが高いので国が直轄して処理)では、7月現在、31基(29基は宮城県)の仮設焼却炉が建設され、現に10基の焼却炉が操業を開始していることが、市民運動等を通じて明らかにされた。仮設焼却炉は、3年間の時限的運転とされているが、31機が全面運転されると、1年少々ですべての瓦礫を焼却できる可能性があるという。既に宮城県は、自区内処理の目途がついたとして、広域処理は不要であると発表している。焼却炉の建設費用は、約3500億円になり、国内の焼却炉メーカーのオンパレードとなっている。

震災の廃棄物の処理費用については、阪神淡路大震災では1トン当たり約2.2万円とほぼ平均的な処理費用であったが、例えば、石巻市から北九州に輸送するだけで、輸送コストは17.5万円にも達し、今回の広域処理は経済的合理性を著しく欠いている。また、瓦礫処理対策の当初予算は1兆700億円から1兆2000億円とも言われているが、決算では増加するだろうし、今年度の広域処理の広告だけでも30億円にも達するとされており、経済的効率性の視点から見ると、首をかしげざるを得ない。

 瓦礫の広域処理は、通常の一般廃棄物の焼却と異なり、放射能や環境汚染の恐れが高いために、受け入れ地域で反対運動に直面した。しかし、安全性とともに、経済的子稀有理性にも配慮し、焼却中心の廃棄物対策ではなく、徹底した分別とリサイクル、そして埋め立てなどの総合的な対策が採られるべきであろう。

【参考 東京新聞記事、環境総合研究所】

以上



第44号
(39)革新的な農業経営

春の訪れが近い信州の佐久地方を調査する機会があった。雄大な八ヶ岳山麓の信濃川の源流に向かって、クルマで山道を登っていくと、人口5000人弱の川上村にたどり着く。平均標高1200mのいわゆる僻地である。戦後、開墾された農地は、ひえやあわぐらいしかできない高原であったが、現在では、日本一の夏レタスの産地となっている。4半世紀に渡って川上村の発展に尽くしてきた藤原村長さんから村の現状を聞いた。

同村は、平成19年度、607戸の農家が高原野菜の販売額155億円を達成した。つまり、1戸あたりの生産額が平均で2500万円を超えるという。農業従事者は30,40歳代の若い世代が多く、1戸あたりの農地面積は2〜5haと比較的広く、専業農家が多く、耕作放棄地は存在しない。こうした農村の現状は、日本の中山間地の平均的な農業の姿とは異なる。先進的な農業は、企業の経営に通じる適格なマネジメントによってもたらされている。

例えば、1988年、同村はCATVを全戸に張り巡らせ、気象衛星による気象情報と消費地における市況情報「レタスネットワーク」を配信し始め、産地競争を勝ち抜いてきた。寒冷地における気象情報は、計画的な農作業や出荷時期の調整を可能にし、主要卸売市場の市況情報は、適格な市状に適格な野菜を出荷することを可能にした。

また、川上村はカリフォルニア州のU.Cデイビス校と協働して、レタスの新種、「リバーグリーン」「サワーアップ」を開発した。夏の収穫期には、中国から約800人の研修生を毎年受け入れている。さらに、近年では生鮮野菜の海外輸出という困難な状況を切り開いて、台湾・香港・シンガポール等へ輸出している。川上村では、24時間オープンの図書館、文化センター、川上村のカラ松を利用した中学校建設等によって、都市的生活に対応できる農村づくりにも力を入れている。

一方、愛媛県の今治市に平成19年にオープンしたJAの産直施設「さいさいきて屋」は、レストラン・加工施設、体験型市民農園、食育教育等を配置し、地産地消型の地域農業振興拠点として注目されている。定年退職者や主婦などのいわゆる兼業農家が「すべて今治産」というほど多様な野菜を作り、成功している。個々の農家は、毎日、携帯電話で配信されるメールで売上高を確認し、キャベツを3個から4個に増やすという具合に出荷する。売上高はそれほど多くはないが、雇用機会と所得を生み出しており、川上村とは対照的である。共通するのは、消費しに適切に対応する農業生産を追及したことである。

以上



第43号
(38)長野県飯田市で進められている太陽光発電

太陽光発電を普及するユニークな取組が長野県飯田市で展開されている。環境貢献として設置したいが、預貯金を取り崩したり、ローンを組んでまで太陽光発電に踏み切れないと思っている人々に、「おひさまファンド」という出資金を利用して、地産知消にエネルギーを提供する「おひさま進歩エネルギー」(有限)が設立されたのは2004年であった。

NPOの市民事業を理念とする同社は、飯田市と連携し、環境省からの補助金を得て、飯田市内の協力会社から立ち上げ検討プロジェクトでアドバイスを受け、さまざまな事業パートナーから企画支援・専門的ノウハウ等の提供を受けた。出資事業は、2008年度までに162ヶ所、1281kwの太陽光パネルを保育園・公民館などの公的施設等に設置し、21ヶ所の公共施設や温泉施設等で省エネ(エスコ)事業を行ない、13ヶ所で太陽熱温水器・ペレットストーブ等のグリーン熱事業を行なった。

ファンドは、1口10万円(出資契約期間10年、目標年間利回り2%)と50万円(同15年、3.3%)の2種類があり、2009年度までに7億3870万円が集められた。出資者は第1回目のファンドである「南信州おひさまファンド」では、476名に達したが、出資者は飯田市民だけでなく、全国各地に広がった。また、2009年度から始まった「おひさまゼロ円システム」では、一般家庭に初期費用ゼロ(設置後9年間は、1月当たり定額19800円支払い)で太陽光パネルを設置し、省エネ努力で余剰電力を売電した場合には、利益が得られるようになっている。太陽光発電事業は、飯田市に限らず、南信州全体に広がり、ファンドは公募だけでなく、地域の金融機関も出資するようになった。

人口規模約10万人、日照時間が約2000時間という中山間地の飯田市は、2007年に環境文化都市を宣言し、09年には環境モデル都市の認定を受け、2030年の温室効果ガス排出量削減目標を05年比、家庭部門で40〜50%とし、2050年には05年比、地域全体で70%削減するという「大胆な」行動計画を推進している。同市では、2010年、事業者の「おひさま進歩エネルギー」を含めて、太陽光パネル設置1件当たり15万円(kw当たり5万円)の補助金を200件予定したが、希望者が多く、さらに4500万円追加した。また、同市内には、2011年、中部電力が1000kwのメガソーラーの運転を開始した。言い出しは、2016年までに全世帯の10%、1万2〜3000kwの太陽光発電を普及する予定で、今後は、創電と節電をパッケージした仕組みの補助金を事業者や農家にも広げることを検討している。

市の積極的な取組と市民共同出資のおひさまシンポが歩調を合わせて、再生可能なエネルギー社会づくりに挑戦していることは、大変興味深い。

以上



第42号
(37)節電と創電――新しいエネルギー利用の形態を

東日本大震災と福島の原発事故後、エネルギー供給制約を考慮せずに電力を自由に使ってきた消費者に大きな課題を残した。課題は主に二つに分けられる。一つは、エネルギー、特に電力消費を節約する行動であり、もう1つはエネルギーを創り出すことである。この二つの課題への取組には、消費生活をマネジメントするという視点が重要である。

電力の消費節電に関しては、電力利用のピーク時に電力を節約することが求められる。アメリカ合衆国では既に1000万戸にスマートメーターが設置され、2020年までに全戸に導入され、ピーク時の電力需要を2割引き下げる目標が揚げられている。スマートメーターを設置した世帯には、翌日の料金変動の見通しを通知して低料金の時間帯に需要を誘導して、ピーク時の需要を抑制しようというのである。スマートメーター導入と共に、ピーク時とオフピーク時の電力料金に格差を設ける料金制度が導入されることが前提となる。スマートメーターの導入は、電力を節約する利益を把握し、合理的な消費生活を心がける契機となる。そして、省エネルギー型の電気製品や断熱材を導入することの利益を「見える化」することも可能となる。

スマートグリットの普及は、停電時等に太陽光発電を利用して病院・交通施設等に優先的に電力を配電することを可能にする。エネルギーの創出は、太陽光のエネルギーを利用する設備に投資することを意味する。すでに現在、全国各地で太陽光・熱利用を導入する仕組みが作られ、普及が急速に進んでいる。固定価格買取制度、自治体による補助金等の助成措置の広がり、市民NPOによる太陽エネルギー利用の普及活動と、融資制度が作られている。

太陽光発電に対するこうした制度の整備は、これまでに初期投資の大きさが消費者に導入を躊躇させてきた状況を大きく変える可能性を持っている。特に融資制度については、自宅での太陽光設備の導入が難しくても、投資をすることによって再生可能エネルギー拡大に参加することができる。

このような状況の変化は、省エネ型電気製品の場合と同種のものだが、太陽光発電導入は地域の中小企業にとって大きなビジネスチャンスをもたらすとともに、消費者には眼前の負担だけでなく、将来継続する利益に配慮し、また地域内で電力を融通することによって安心を維持する仕組みに参加するという意識を高めることになる。

以上



第40号
(号外)緊急発信! 東日本大震災を

本原稿の締切り時期であった3月11日(金)の午後2時半過ぎ、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0という、観測史上最大級の地震が東北、関東の太平洋岸を襲った。大震災は、直後に高いところで10mを越す津波を伴って、宮城、岩手の美しい三陸海岸の水辺の町を崩壊させた。

現時点で、死亡した被害者は1万人を超すといわれているが、救援や捜索は初期段階で、今後さらに被害が増えるという予測がマスコミで流されている。まさに日本列島の危機であるが、この大地震は12日(日)には、福島の第一原発と第2原発の稼働中の原発を全て緊急停止させ、その後、第1原発の1号機では緊急炉心冷却装置の機能が麻痺し、水素爆発を起こし、建屋を吹き飛ばし、炉心溶融の危機が迫るという前代未聞の原発事故を伴った。

14日(月)には、さらに、第1原発のウランとプルトニウムの混合燃料を用いた3号機が同様な爆発を起こし、そして同日夜、第2号機が炉心溶融に立ち至っている。ロシアのチェルノブイリ事故に匹敵する炉心溶融(メルトダウン)が出現する恐れが生じている。この恐れは後日、解消され、炉心の冷却が進み、核分裂を抑制するようになっていることを切に願うが、すでに、第1原発では周囲20km、また第2原発では周囲10Kmの地域住民に対して避難勧告が出され、約21万人に及ぶ住民が避難している。東北地方で救援を待っている45万人といわれる避難者、そして、原発周辺の退避者の苦悩を想像し、また、これからの住宅をはじめとするインフラ施設の建設や生活の再建に思いをはせると、今回の大震災の深刻さに圧倒される思いである。

大震災は繰り返す余震を東日本全域にもたらし、原発の停止・事故の不安は、首都圏の生活を直撃している。帰宅困難者が増え、経済が機能麻痺し、長期にわたる停電の予想が、人々の生活不安を煽りたて、防災グッズや日用品に対する買い走り・買いだめを促している。今後、脱原発の動きとともに、都市における住民生活もしなやかに、そして大胆に変革していくことが求められることになるであろう(2011年3月14日)。

以上



第39号
(36)自転車は復活するか

全国的に、自転車交通への関心が高まっている。レンタルサイクル、あるいはコミュニティーサイクルという貸自転車システムや自転車専用レーンの導入実験が各地で実施されている。自転車は、若者にはスポーツ的要素があり、健康に良いと評判であり、高齢者には自動車から転換して、買物など身近な交通手段として見直されている。何より、温室効果ガスを排出しない乗り物であり、経済的であり、都市景観を肌で感じて観光する手段でもある。モータリゼーションで衰退する中心市街地でもにぎわいを復活する手段として期待が寄せられている。

一方で、増加する自転車交通は、これまで歩行者・自転車を配慮してこなかった道路政策もあって、歩行者や自動車との接触事故を増加させており、自転車交通の安全性と安全教育が大きな課題になっている。

イギリスの経済学者、ミシャンは、「経済成長の代価」という本に中で、道路交通において、人々の所得が増え合理的に交通手段を選択する限り、自動車は増加し、バスなど公共交通機関や自転車は排除され、結果的には自動車交通が混雑するようになるが、そのときになって、公共交通手段を求めても、もはや人々はそれを選択することができないという「ミシャンの逆説」という理論を展開した。

自転車交通を公共交通機関として位置づけ、早くから都心地域から自動車を排除し、自転車専用レーン整備などの政策を取ってきたオランダや、近年、パリ等でヴェリブによって運営されている「サイクル・シェアリング」が急速に展開されているフランスに遅れをとったイギリスのロンドンでは、2010年7月30日、Barclays Cycle Hireというロンドン交通局(TfL)によるサイクル・シェアリングが始まった。当初の自転車数は5000台、ドックと呼ばれる歩道上に設けられた駐輪場数は315に及び、さらに、Cycle Superhighwayと呼ばれる幅員1.5mの自転車専用レーンがロンドン郊外から中心地まで2車線(ともに、約12km)整備され、さらに2015年までに12路線が整備されることになった。

今後、ロンドンでは自転車の交通分担率が、現時点に比較して、4倍に増えるという。さて、自転車交通に対する意識がたまった日本でも、西欧のような自転車交通の復活が実現するだろうか。

以上



第38号
(35)2010年の異常な夏

今夏、日本列島は連日、猛暑に襲われた。人間の体温に近い摂氏36度から38度という猛烈な気温が日中続き、熱中症のため救急車で運ばれる高齢者が多数に上がったことが毎日のニュースで報じられた。最低気温が25度以上という熱帯夜も続いたため、エアコンを1日中つけっぱなしにしている家庭も多かったようだ。一方で、高齢者の中には、エアコンを持っていないか、エアコンの冷気が体を冷やすからという理由で使わない人も多いようで、このため体温調整ができず、熱中症が原因で死亡する人も多数に上がったようだ。

快適な住環境を維持するためには、エアコンなどの物理的な住居空間を整備するだけでなく、高齢者世帯に対するサポート体制を整備することが必要である。異常気象時には、高齢社宅を訪問し、熱中症に対する対策をこまめに点検、相談する体制を整えることが重要だ。介護保険の内容にこうした熱中症対策を加えることも一案だろう。

天候をはじめとする環境の変化は、高齢者という弱者にまず影響を及ぼす。中でも、健康上の理由だけでなく、家庭や社会から疎外、排除された高齢者が環境悪化の犠牲者になりやすいといえよう。

2010年の夏のもう1つの異常現象は、100歳以上の高齢者の生存確認が全国で取れていない問題が発生したことである。高齢者の生存確認は、住民票、住民基本台帳、戸籍簿登録などで消滅・削除していなければ生存しているとみなされる。つまり、死亡届を自治体に提出しなければ生存しているとされるのであるが、どうやら家族などの関係者が何らかの理由で死亡届を出していないようなのだ。たとえ、家族などから死亡届が出されていなくとも、民生委員による高齢者への訪問・確認や介護保険の利用状況などから生存を確認できる方策もあろう。

家族から死亡届が提出されていない理由を大きく分けると、高齢者本人の行方不明と家族が親の年金給付金を不法受給していることが挙げられている。前者は一種の「姥捨て山」であり、また、後者は相続と社会福祉の谷間に生じた不法行為であり、現代の貧困問題を象徴する問題といえよう。

奇しくも2010年の夏に生じた異常な環境と高齢社会の揺らぎの問題は、本格的な高齢社会に入った日本に大きな問題を投げかけたといえよう。

以上



第36号
(33)難航する地球温暖化対策基本法案

第174回通常国会で提出が予定されたてる法案に地球温暖化対策基本法案がある。しかし、基本法であるにもかかわらず十分な議論は展開されていない。2009年12月のコペンハーゲンのCOP15で「ポスト京都」の道筋を決められなかったこともあり、我が国だけでなく、アメリカ合衆国も足踏み状態となっている。

まず、2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%、2050年までに80%削減するという基本原則に、「公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提」が付いている点に関して、NPO等から基本法に趣旨が明確でないと指摘されている。

また、同法は、国内排出量取引制度の創設、地球温暖化対策税(環境税)の実施、再生可能エネルギーの固定価格、全量買取方式の導入を基本的施策にしているが、ここでも賛否両論がある。排出量取引については、キャップ&トレード方式に対して、石油や鉄鋼などの産業が生産量あたりの排出量の上限方式(排出原単価方式)を主張しており、排出量の上限設定を主張する法案と対立している。排出量上限方式では、今後増加する予定の環境産業にも適用されれば成長戦略に反するといった意見等も見られ、反対に、原単価上限方式はCOP15で提唱された中国と同じ方式で、総量を減らすことはできないという意見もある。政府が検討しているロードマップ(工程表)との関連では、再生可能エネルギー買い取りで、太陽光発電の普及を現在の3%(1次エネルギーに占める比率)から2020年に7%に引き上げると、民間負担は8227億円、国民一人当たり7000円弱(1ヶ月で約600円)になると経済産業者が試算しており、買い取り制度の難しさが指摘されている。経産省は、エコポイントへの補助金、原発への補助金等となぜ比較しないのであろうか。反対に、NPOは2020年までに20%への引き上げを主張して対立している。

なお、民主党の地球温暖化対策基本法案に、労働組合の連合も国民負担について合意が得られていないとして慎重な態度をとっている。また、原子力発電についても配慮されてないという意見もある。前途多難である。

以上



第35号
(32)マイボトルの普及を目指して

私の勤務する大学のゼミ生が「マイボトルの普及を目指して」というテーマで共同研究を行なった。近年、ステンレス魔法瓶の出荷量は急速に増えているが、さらなる普及を進めるにはどうすればよいかという問題を考察した。

まず、大学生に対するアンケート調査では、男性127人、女性39人のうち、マイボトルを使っている男子学生は18%、女子学生は46%であり、使用している理由は「節約になる」「飲みたい時に飲める」「おしゃれ」「環境によい」という順であった。今日の経済不況が、学生に影響を及ぼしていることが読み取れるが、実際、ペットボトルの購入量は、マイボトル使用者で週に平均1.5本、マイボトル非使用者で平均3.8本となっており、マイボトル使用者は節約志向が強い。一方、マイボトルの不満点は「かさばる」「思い」「洗うのが面倒」という順。そこで、飲料水を自動販売機などで購入できればというわけで、既に京都市役所のエコ・コンビニで導入され、また、ファミレスにあるドリンクバー方式であるディスペンサーを利用し、価格を安くすれば(例えば、250mlで50円程)利用したいという回答は65%に上がった。

さて、アンケート結果からは女子学生のマイボトル利用者が多いが、マイボトルを利用することによってペットボトルの購入を節約できる金額は、1本150として、年間1万6425円にもなる。さらに、わが大学の全学生は約2万8000人であるから、ディスペンサー利用希望者の65%がマイボトラーとなったとすれば、1年間のCO2削減量は、実に374トンの削減になる。

従業員の44.2%が職場にマイボトルを持参しているミツカングループ本社のように、オフィスでのマイボトルの利用を増やし、ディズニーのスーベニアカップとしてマイボトルのデザインを企画するとか、ディスペンサーを利用できるコンビニを増やすことによって、マイボトルを普及するのではというのが、学生の提言であった。

以上



第34号
(31)民主党の環境政策

2009年8月30日の衆議院総選挙で、自民・公明連立政権が大敗、民主党が大躍進をし、政権交代が実現した。総選挙ではマニフェストが大きな役割を演じたが、民主党のマニフェストでは、国造りの骨格を変え、官僚主義から政府主導へと舵を切り変えることが強調された。

戦後、長く続いた自民党と官僚との協調体制から、民主党は官僚主義の流れを変え、財政の無駄を省くとともに、産業から国民生活を優先する政策に変えることになった。さて、今後の民主党の環境政策はどうなるのだろうか。地球温暖化政策では、民主党は温室効果ガスを2020年度に、1990年度比で25%削減するとしている。前政権が2020年度の目標値を2005年度比で15%減としたのであるから、これは大幅な削減というべきであろう。このためには、排出量取引や地球温暖化税(炭素税)の導入、そして、固定価格買い入れ制度による太陽光発電をはじめとする自然エネルギー、省エネルギーの助成を行なうという。排出量取引や炭素税の導入は、わが国の産業界が反対していたので、これまでは省エネ住宅、エコカー、太陽光導入という消費者サイドの政策が主だったが、一次的には産業界がまず財政的な負担をする政策に切り替えられるかも知れない。しかし、グローバル経済で激しい競争に直面している産業界の同意がないと、結局は海外から大規模に排出量を買い入れ、また、原発を増設しなければならないといった状況に追い込まれないとも限らない。

もうひとつの問題は、ガソリン税の暫定税率の廃止と高速道路料金の無料化である。この政策は国民の生活コスト引き下げ、地域の活性化を目指したものであり、従来の高速道路政策の大転換をもたらすものであるが、それに伴う財政支出増加の可能性と正当性を議論し、また、自動車交通の混雑化に伴う大気汚染や二酸化炭素排出がどの程度増えるかを検証し、そして、高速道路建設から総合交通政策への転換を促し、自動車代替交通への影響や新たな走行距離に対応する課税制度(キロメートル・チャージ)の導入などを検討すべきであろう。今後の民主党の環境政策に注目したい。

以上



第33号
(30)政府の不況対策と消費者

政府の不況対策が始まった。2008年10月から09年4月にかけての2四半世紀間連続で、実質GDPの成長率が(年率換算で)二桁マイナス成長率という、戦後最大級の不況に直面して、政府は雇用対策などを主軸に大型の2009年度予算を編成したが、さらに、同予算成立直後、15.4兆円に及ぶ補正予算を組み、この5月末に成立させた。景気対策は、高速道路の利用料を土日に限って地方で一律1000円とするという地域活性化政策以降、定額給付金、家電製品のエコポイント制度、エコカー減税、住宅ローン減税、太陽光発電システムに対する補助金、そして、子育て特別給付金、失業給付金の改善をはじめとする雇用政策等などへと、広がり始めている。このおかげで、09年6月には経済不況は底割れしたとの報道がなされている。

短期的な需要拡大策は、「不思議の国のアリス」のように、価値が転倒する。貯蓄は悪であり、消費は美徳であり、長持ちは悪であり、買い替えは善であるというわけだ。もっとも、政府見解ではこれはバラまきではなく、中長期的に見て内需を拡大する「賢い財政支出」であるという。エコカーと太陽光発電システムを今後20何倍も増やすことによって、わが国の「環境産業」を育成し、2020年の温室効果ガスの削減目標である05年度比で15%減を達成しようというわけである。どうも、政府は、おとなしい消費者を誘導して経済恐慌とサスティナブル社会の課題を解決するつもりのようだ。不況対策は、外環道などの高速道路や箱物の建物にも投入されるが、消費者に焦点を当てているようだ。いずれにせよ、今後1年ぐらいで、消費者はどれだけ政府から補助金を得たのかという話が増えるだろうが、その数年後には、きっとどれだけ財政負担が増えるかが問われることになろう。

以上



第32号
(29)グリーン・ニューディール政策

世界同時不況を脱出するためのグリーン・ニューディール経済政策が、脚光を浴びている。1929年のアメリカ合衆国における大恐慌の際、ルーズベルト大統領はダム建設などの公共事業によって総需要を拡大し、景気回復を誘導するニューディール政策を実施した。ダムや道路の建設は、その後の電力消費拡大やモータリゼーションの途を開き、大恐慌時における雇用拡大とその後の経済成長の基礎を形成した。今日のグリーン・ニューディール政策では、自然エネルギー、省エネルギーなどの地球温暖化対策に重点が置かれている。グリーン・ニューディール政策は、景気対策、雇用対策、温暖化対策、そして中期的な経済成長対策という4つの課題に同時に答えなくてはならない。

太陽光発電、風力発電、バイオ燃料などの自然エネルギーを進めるために、政府は各種の補助金を消費者や電力会社に支出するようだ。省エネルギーの分野では、グリーン税制を強化し、ハイブリッド自動車などに補助金を支給したり、鉄道などの代替交通にも財政支出をするようだ。太陽光発電では、電力会社に一定の電力量を買い上げさせる(いわゆるRPS)政策と、家庭で作られる太陽光電力を現在の電力価格より高い料金で購入させるという固定価格と買取り制(いわゆるFIT制)の2つの政策がある。わが国では前者の政策が採られてきたが、今後は、現行電力料金の2倍ぐらいの価格で太陽光電力を電力会社が購入し、消費者は各種補助金を得て、約10年で太陽光パネルに初期費用を回収する案が出されている。また、住宅における省エネについても、各種の補助金が考えられているようだ。

以上のようなグリーン・ニューディール政策の問題点は、財政による助成については、まず現在の財政の仕組みをかえなくてはならないということである。わが国では、電力の補助金といえば原発に限られてきたが、これらの財政資金を自然エネルギーに転換すべきだし、また、省エネに対する補助金には道路特定財源を当てるべきであろう。省エネ型自動車を増やし、道路を増やすというのでは、結局、温室効果ガスの大幅削減を困難にし、また、わが国の財政危機を一層、悪化させるだろう。

以上



第31号
(28)金融恐慌は「サスティナブル」時代の幕開けか

2008年冬、アメリカ合衆国に端を発した金融不況は世界に広がり、日本もその大きな渦に巻き込まれている。原因は、サブプライムローンを証券化した金融派生商品が世界に広がり、金融バブルが生じていたときに、アメリカ合衆国の住宅価格の下落から、金融派生商品に対する信頼が一気に崩れ、金融バブルが崩壊したことである。手の込んだ金融派生商品であるがゆえに、証券会社や銀行などの金融機関の損失はいまだ不明のところであるが、政府による不良債権(塩漬けにされているサブプライムローン証券)の買い入れ救済策が今後とられると、更なる金融不安を発生させる可能性がある。

2008年は、春から夏にかけて、穀物と原油等の天然資源の価格が急騰した。これも、サブプライムローンによって生じた証券市場の不安から、穀物や資源の先物市場に大量のマネーが流入したことが大きな要因となっている。実際、金融バブル崩壊後には、金融商品に対する不安から、安全な流動性に対する選好が進み、穀物や資源の先物市場から投機資源が逃げ出し、穀物や原油等の価格が急落したのである。

このような状況の中で、消費者は雇用や所得の不安から、車の利用を控え、カープーリングに取り組み、自転車などの代替交通手段を見直し、省エネ型商品を選択し、木質ペレットなどのバイオ燃料を導入し、節約に努め、輸入穀物に代わって日本の米を見直すなどの行動をとってきた。金融不況は実物面での需要削減というデフレ現象を生み出している。デット(負債)・デフレーション時代への突入である。アメリカ合衆国のビッグ3と呼ばれる大手自動車メーカーは倒産の危機に瀕しているし、日本でも、急激な円高もあって自動車、電気製品などの多様な分野での生産縮小・設備投資の見直しが迫られている。期せずして、先進国の自動車時代は終焉期を迎えているように思えるが、このことは、温室効果ガスの削減に繋がってこよう。エネルギーを大量に利用する工業製品の生産縮小というマクロ経済の規模の縮小と、環境を重視した技術や生産への転換は「サスティナブル」時代への幕開けになっているのかもしれない。

以上



第30号
(27)食生活と地球温暖化

地球温暖化問題が、われわれの食生活のあり方に課題を投げかけている。たとえば、すし1人前のフード・マイレージは、地球2.7周分に当たると聞けば、多くの人が驚くだろう。しかし、いわし、真鯛、ホタテなどの国内産を除くと、さばはノルウェー、数の子はカナダ、タコはモーリタニアなどから輸入されており、全体の距離数は106,600kmにも及んでいる。当然、エネルギー消費量と二酸化炭素の排出量が高いということを意味する。食生活と地球温暖化については、近年、フード・マイレージやフード・マイルという名前で計算させ、注目を浴びるようになった。

フード・マイレージは食料の自給率にポイントを置いたもので、今日、農水産物はグローバル化しているが、このグローバル化に合わせて農水産物輸送のエネルギー消費量を計算するものである。実際、わが国の食料自給率はカロリーベースで約40%に過ぎず、輸送距離に食料輸送量を掛け合わせたフード・マイレージ(トン・キロメートル)は、2001年度で9002億トン・キロとなっている。これは韓国やアメリカ合衆国の3倍、ドイツやイギリスの4〜5倍に当たり、食料の海外依存度の高さにほぼ比例している。わが国のフード・マイレージが高いのは、特に、輸入農産物の中で小麦などの穀物や大豆などの油糧種子のウェイトが高い(全体の72%)こと、食糧輸入相手国がアメリカ合衆国、カナダ、オーストラリアに集中している(3カ国で全体の76%)ことが要因になっている。フード・マイレージを減らすには、食料輸入量を減らさなくてはならない。

フード・マイレージは、国内輸送については計算していない。一方、国内外の輸送距離と輸入手段別の外部費用を計測しているのがフード・マイルの特徴である。近年、農水産物の年間を通じた常時消費を可能にし、さらに、ハウス栽培によって季節はずれの消費を可能にしている。東京圏では、かぼちゃは、春先は沖縄、夏は近郊地、秋は高原、そして冬はニュージーランド等から購入するといった具合である。旬の、それも近郊地で生産された農産物を消費すればフード・マイルを減らすことができるのだ。フード・マイルで大切なことは、国内輸送の場合は輸入の際に利用される外航船舶ではなく貨物自動車を利用するが、自動車交通のエネルギー効率は船舶に比較して低く、さらに、都市部での貨物輸送は大気汚染、騒音・振動、交通事故などの外部費用をもたらしていることである。

フード・マイルやフード・マイレージを減らすためには、自動車交通からのモーダルシフトを進め、外部費用の少ない近郊地で収穫された農産物や近海でとれる水産物の価値を見直し、今一度、米を中心に、水産物等でたんぱく質を摂取してきた、食料自給率が高かった時代の日本の食文化を再確認し、地域ブランドの農水産物で地域活性化を促すことが必要である。

以上



第29号
(26)レジ袋有料化論争

最近、レジ袋の有料化をめぐって、否定的な議論が展開されている。その中の1つにレジ袋を有料化してもごみの減量にならない、資源の節約にもならないという主張がある。

実際、各種アンケート調査などでは、「台所の生ごみを入れる袋に」、「ゴミ箱の内袋に」、「便利な袋として」利用するという回答が多く、「利用しないで捨てる」という回答は1%にも満たないという結果が出ているという。このような回答の背景には、レジ袋を日頃持ち歩いて再利用してから最後にゴミ袋として利用するという、グリーンコンシューマーの知恵も生かされているので、レジ袋は買物の後でも簡単にはごみとなっていないようだ。さらに、再利用されるレジ袋に変わって新しいゴミ袋が利用されると、結局、二酸化炭素の排出量の削減や、資源の節約にならず、いずれ、消費者は経済的負担だけが増えて、環境保全には繋がらないことに気づくというのである。

アンケート調査の結果は、消費者の「もったいない」精神があり、感心させられるが、しかし、買物のたびに「もらう」わが国で年間約300億枚にも及ぶレジ袋は、必ずしも常に有効に利用されているとは限らないのではないだろうか。というのは、無料と有料のゴミ袋の違いは、後者は目的を持って購入するのに対して、前者は「ただ」のものを「可能な限り」利用しようということにポイントがあるからである。実際、ゴミ袋はごみを家庭で貯蔵、あるいは回収時に詰め込むという目的で購入するので、回収頻度やごみの量、そしてごみの削減にあわせて一定の容量のゴミ袋を購入するので、ごみの容量とは無関係にたまってしまうレジ袋とはおのずと役割が異なる。レジ袋がたまると、少量のごみでもゴミ袋として利用することに全く抵抗はない。レジ袋をゴミ袋として利用してきた人が、ゴミ袋購入派に変わったとき、プラスチック袋の利用量が減ったことに気づくと思うが、いかがであろうか。この種のアンケート調査は行なわれているのだろうか。

この点は容器包装一般にも通じることである。たとえば、ペットボトルを水筒に再利用する場合のように、消費者が消費後の容器を有効に再利用することは十分に考えられるが、しかし、消費者はペット容器を、目的を持って「購入」したのではない。ペットボトル等の容器は再度、容器としてリユースするのが望ましいことは明らかであろう。レジ袋論争を通じて、環境に配慮する買い物のあり方、消費のあり方を考える機会になるとすれば、買い物を通じて環境意識を育む大事な一歩になるのではなかろうか。

以上



第28号
(25)ギョーザ中毒事件と国際協力

最近、ミートホープによる牛肉偽装当商品・品質の不当表示、再生紙における古紙混入率偽装問題、中国から輸入された冷凍ギョーザの農薬汚染問題など、消費の安全を脅かす問題が頻発している。
特にギョーザ中毒事件では、有機リン系殺虫剤の「キタミドホス」が3000ppmを超えて含まれ、ギョーザ1個で人間の致死量となる猛毒であったこと、ギョーザを食した消費者に深刻な被害が生じたことからも、まさに、消費の安全性は危機的な状況といえよう。

さらに、中国から輸入されている冷凍食品をはじめとする食料品に対する全般的な不安は、日中間における外交問題にまで発展しかねない。日本の食料自給率は、周知のように2006年度で39%と、先進国において最低の水準だが、今回のギョーザ問題は、わが国における食の安全保障は、米、小麦、大豆などの穀物について議論される場合が多いが、今回のように加工食品が問題の発生源であることを考えると、これまでの考え方を変えねばならない。

中国からの農産物の輸入比率は1996年の9%から2006年の13%へと急増しており、他方、中国では危険な農薬が使用されている状況があり、日中で協力して食の安全性を追及していかなくてはならない。一般に、食品の場合、一旦ことが起こると検査体制の整備や消費者の不安などから輸入が停滞する危険性が高い。そして、北京オリンピック開催などを控えた中国政府は、食の安全性について特に神経質になっており、外交問題化しやすい状況となっている。

もっとも、日本の企業は中国に進出して、食料品を生産し、農産物を開発・輸入しており、そのことは日本だけでなく、中国においても食の安全性を促す大きな要因となっている。一方、中国では一般にレタスなどの野菜を生で食べる習慣はそれほどなかったようだが、所得の上昇とともに、新鮮な野菜を食するようになると、人々は包装された食品を購入するようになり、中国における流通体系を変える契機となっているようだ。両国が協力して、食の安全性を確保していく取り組みを進めることが肝要である。

以上



第27号
(24)空洞化する中心市街地での買い物

最近になって、新潟に住んでいる義姉から電気製品を買い換えたという知らせを受けた。何でも、70歳を少し過ぎていて1人住まいの上、リウマチを病み手足も不自由ということがあって、現在使っている電気製品が故障した場合も買い物に出かけることができず、かといって修理を頼める先もないことから、冷蔵庫、洗濯機、TV、電話等を一新したというわけである。

義姉が住んでいるところは、郊外に大型店ができたこともあって中心市街地の空洞化が進み、商店街が衰退して、いわゆるシャッター通り化している典型的な地域である。こうした地域では、車の運転ができない高齢者は買い物も自由にできないということらしい。また、商店街にあった電器店は消滅したのでも容易に修理に来てもらうこともできない。さらに、中心市街地の空洞化によってバス便も減少し、旧市内に住む高齢者にとっては病院に出かけるのも困難になっている。新潟特有の雪空を思いつつ、気持ちが滅入る話であった。

そこで、電気製品をすべて買い換えたというわけであるが、結構使える電気製品は一体どうなるのか。リサイクルや中古品として再使用することは可能であろうが、物を大事に使う、あるいは物に愛着を覚え、修理をしながらできるだけ長く利用するという考え方には反するものであろう。一方、新製品は省エネ型のものが多いので、環境配慮の点から見れば、買い換える方がよいのかもしれない。
新潟の義姉の話は、地域社会から徐々に疎外されていく高齢者の買い物行動の特徴を示しており、その買い物行動にも環境配慮がどのように関わっているかを考えさせられる、少々やるせないものであった。

以上



第26号
(23)大都市東京における地球温暖化対策

猛烈な炎暑が始まる直前の2007年6月、東京都は気候変動対策方針を発表した。世界的な大都市・東京が、数値目標を明示して、地球温暖化対策に乗り出した意義は大きい。東京都には産業施設は少ないが、大・中小企業の事業所や民間住宅が密集し、交通混雑も激しく、2005年度の東京都における二酸化炭素の排出量は1990年に比較して約7%も増加している。特に業務部門で33%も家庭部門で約15%増加しており、厳しい現状にある。こうした状況を脱し、世界の環境先進都市づくりを目指そうと、東京とはさまざまな提案を行なった。

「カーボンマイナス東京10年プロジェクト」では、2020年までに、東京の温室効果ガスの排出量を2000年比で25%削減するという目標を明示。主に、民間の持つ技術をフルに活用し、「低エネルギー・低CO2型社会」を作るという意欲的な計画を提示している。もともと、東京の一人当たりのCO”排出量は、ロンドンやニューヨークに比較して2〜3割ほど低いのであるが、さらに、効率の高いエネルギー施設や機器、LEDなどの照明技術、ハイブリッド自動車に代表される低燃費自動車など世界に誇る環境技術をフル活用すれば、低エネルギー社会への転換は可能であるという。

再生可能エネルギー分野では、100万kwの太陽光発電を目指す。これらの環境技術を導入するには多大なイニシャルコストが必要となるが、都は金融機関との連携、地球温暖化推進基金の活用、税制などで、コストをまかなうことは可能であると主張する。特に、家庭部門では、「白熱球一掃作戦」、太陽熱温水器の普及、住宅の省エネルギー性能の向上、太陽光発電や高効率給油機の導入などを推進するために、都独自の省エネルギー促進税制の導入を図るとしている。大規模事業者への総量削減の義務化、大企業と中小企業の間での排出量取引規制度の導入、中小企業や家庭への省エネ設備設置に対する支援制度など、東京都ならではの金融支援は重要であろう。

交通については、環境技術の役割が重視されているが、自動車交通量を削減する混雑税制度などについては触れられていない。交通を含む大都市におけるライフスタイルの転換を促すことが、もっと主張されるべきであろうが、都の対策方針はグリーンコンシューマーにとっても注目に値するものといえよう。

以上



第25号
(22)ヒートポンプ型の家庭電化製品の効果

本格的な夏の到来に合わせて、エアコンによる電力消費量が増える時季となった。クールビズをふくめて各種の省エネ活動が家庭や職場で要請されているが、省エネ型のエアコンも話題になっている。今日のエアコンはインバータの導入などによって省エネ化が進んでいるが、特に、ヒートポンプを利用したエアコンは省エネ効果が高く注目を浴びている。

ヒートポンプは、空気熱をくみ上げ、CO2等の冷媒を圧縮・凝縮、そして蒸発させることによって、室内に低温や高温の風を送り出す装置のことであり、特に、高温から給油するエコキュートが有名である。実際、エネルギー消費効率(COP)を4(2006年のエコキュートモデルでこの値は4.9)とすると、従来の都市ガス・灯油などを利用した給油器に比較してCO2の排出量を約65%削減することかでき、家庭1戸当たりで年間約0.8トンもの排出を抑制することができるという。家庭エネルギー消費の3分の1は給油分野であるから、家庭用給湯器のすべてをエコキュートにすれば、年間2500万トン、わが国のCO2総排出量の2%削減に相当する。同様に、家庭用エアコンのすべてをヒートポンプにすれば、COPを6と想定すると、年間約3000万トンのCO2の削減が可能になる。

さらに、業務用の給湯や空調にヒートポンプを導入すれば、民生部門で年間約1億トンのCO2削減が可能になるという。こうした数字は、(財)ヒートポンプ・蓄熱センター編「ヒートポンプ・蓄熱白書」(オーム社、平成19年)で示されているが、冷媒を圧縮するには電力を必要とすること、電力利用における平準化措置(蓄熱方式における夜間割引電力の利用)では原子力発電の拡大を想定していることなど気がかりな点もあるが、太陽光等の再生可能エネルギーの利用も可能なこと、ヒートポンプはこれまでの熱力学の考え方を逆転させるユニークな開発であり、現に即座に導入可能な技術である点などを考慮すると、検討に値するものといえよう。

以上



第24号
(21)地上波デジタルTVへの切り替え

テレビ放送受信機がアナログから地上波デジタルに切り替えられることになり、これまでのアナログ波を利用したブラウン管テレビの廃棄のあり方が今後、大きな問題となってくる。2011年7月、壮大数1億台ともいわれるアナログテレビは一斉に不要になるが、そのテレビは家電リサイクル法に従って、消費者が自ら電気屋さんに運び、リサイクル料金を支払ってリサイクルしてもらうことになる。中には、リサイクル料金の支払いを拒んで、不法投棄を行なう者も出てくるかもしれない。不要になった大量のテレビは確実にリサイクルされるのか、またリサイクルのプロセスから汚染が生じる危険がないのか不安が付きまとう。さらに、回収されたブラウン管テレビは、デジタルに切り替える時期がはっきりしていない発展途上国に輸出されるかもしれず、リサイクルは混乱するかもしれない。

いずれにせよ、テレビ放送受信機におけるアナログからデジタルへの変換という大きな技術革新は、旧式の製品の一斉廃棄という深刻な問題を生み出す。テレビのように家庭の隅々まで入り込んでいる電気製品の技術革新は、一方で消費者の利便性を高めるものの、他方で環境面や資源の利用面から見て大きな問題を引き起こすことになろう。現在販売されている地上波デジタル受信チューナーを内蔵した大型の液晶画面やプラズマ画面のテレビは家電リサイクル法の対象になっていないが、リサイクルのあり方に問題がないのであろうか。

技術革新の導入に当たっては、リサイクル・廃棄物や環境汚染が考慮されるべきだが、今日のような大量生産・大量消費の時代には、それが困難であることは、家庭で分別して驚くほどに大量に生じるプラスチック廃棄物のリサイクルのあり方について、種々の議論が展開されている状況にも表れている。

以上



第23号
(20)多摩川源流

平成18年1月に入って早々、法政大学エコ地域デザイン研究所主催の「東京源流展」が都内で開かれた。関東平野を流れる荒川、利根川、多摩川などの大河川の流域は、今日、巨大な都市圏へと変貌してしまったが、歴史的にその変遷をたどると、5000年前の縄文海進、さらに2万50000年前の古東京川にまで遡ることができるという。写真家の鰐山英次氏の自由な眼から見ると、野川の川霧を撮影した多数の写真からは、縄文人の原風景を垣間見ることができるという。ススキが生い茂り、早朝の大気と水の温度差によって生じる野川の川霧を通じて、太古の人々の息遣いを読み込む写真家の想像力には、驚くばかりである。

多摩川源流の山々は、明治時代になって、東京市が水源涵養林として取得した。それ以来、自然林として管理されてきた森もあり、鬱蒼とした美しいブナ林を「東京都内」で見ることができる。東京都民の飲料水は、奥多摩湖を始め、奥多摩の源流を保全することによって守られてきたのであり、また、1653年に完成した総延長43キロに及ぶ玉川上水は、羽村取水堰から都心に上水の供給を可能にした、さらに、多摩川から村山貯水池に導水された水は、利根川水系とも合流し、今日の東京都の貴重な上水となっているのである。大都市の生活は、まさに、保全された自然と歴史によって支えられているのだ。

大都市圏ではほとんどの河川流域が開発され、多数の用水路が消滅してきた。それでも、一筋の水の流れは東京湾に流れ込み、その周辺には、風の道となっている細長い緑地帯を形成し、野鳥や、種々の生物が消息する貴重な場を提供している。気象の変化に伴いその顔を変える寡占は、まさに生きた河川であり、人間にとっても、歴史を思い起こさせ、自然を発見させてくれる貴重な場所なのである。

以上



第22号
(19)信頼される環境ラベル

「環境配慮型商品」を提供する際に大きな手がかりになるのは、環境ラベルであろう。わが国の環境ラベルには、エコマーク、再生紙につけられるグリーンマークやRマーク、省エネマークなどがあるが、グリーンコンシューマーによって必ずしも効果的に利用されているとはいえない。たとえばエコマークは多くの消費者がもちろん知ってはいるものの、エコマーク商品は実際には法人向けに販売されている商品の比率が高いことからも判るように、環境ラベルとしてエコマークを意識して毎日の買い物をする機会は少ないようだ。

また、環境ラベルのついた商品がまだまだ少ないために、店頭で探すのは困難であるかもしれない。さらに、日本の消費者は環境ラベルをそれほど信頼していないのかもしれない。実際、最近の例では、家庭用電気冷蔵庫の消費電力量で、定められた試験方法による測定結果の表示と実際の電気使用量との間に大きな違いがあることがわかり、省エネマークに対する信頼が一時的に失われるという事件が発生した。これに対して、北欧諸国では環境ラベルに対する信頼度は高く、ラベルのついた商品選択が盛んである。実際スウェーデンで買い物をすると、領収書に環境ラベルが付いた商品の比率が記され、消費者は買い物の際にどれほど環境に配慮したかを知ることができる。また、有機栽培の食料品は環境配慮型商品の典型例だが、その購入を通じて、環境ラベルへの消費者の関心が高まるという効果がある。

わが国でも、環境ラベルに対する消費者の信頼感を高め、領収書に環境ラベル商品の比率を記し、一定以上の比率になった場合には値引きされるといった優遇措置があれば、環境ラベルの選択が進むであろう。

以上



第20号
(18)コンパクトシティー・金沢市の試み

最近、金沢市を訪れる機会があった。金沢は昭和38年のいわゆる「38豪雪」の時も、交通機関の混乱はそれほど起きなかったといわれ、「コンパクトシティー」の利点を感じさせる都市である。今回は、現代都市の大問題である「交通が与える環境負荷」という点において、金沢が何かヒントを与えてくれるのではないかという期待をもった訪問でもあった。

金沢市では、金沢城跡に金沢大学があったころと比較すると、中心市街地に若者が集まらず、文化の創造という点で活力が失われているという声が上がっている。実際、多くの大学が郊外の環状道路沿いに立地・移転し、また、県庁が金沢駅近くの再開発地域に移転したため、一方ではこうした跡地に21世紀美術館や近代的なお城等が作られ、多数の市民や観光客を集めているという効果をもたらしたものの、かつての学園都市の趣はなくなっているというのが現状である。

そこで、金沢市は学生を市内に呼び込むために、いくつかの工夫を行なっている。平成14年には、「学生と共生するまちづくり検討会」が作られ、学生の文化拠点として、香林坊シネマストリート沿いの旧プラザ劇場を活用した「香林坊ハーバー」かつくられ、香林坊カフェもオープンした。しかし平成17年には、旧プラザ劇場が取り壊しになり、旧イーストサロン(デジタルアートの育成・展示を行なっている)への移転を余儀なくされたし、また各種イベントに集まる若者の数も増えていないという。この原因の多くは、郊外から中心地に来る学生の交通問題にあるという。

これに対処するため、金沢市としても、県庁跡地でシティーカレッジを開催したり、夜間、学生が大学に戻れるようにタクシーのチケットを配布するなど、涙ぐましい努力を行なっている。さらに最近では、中心地と郊外の大学を結ぶバス路線を維持するために、学生のバス利用の目標値を設定する「金沢バストリガー方式」という制度をつくり、バス路線を確保し、都心回帰につなげようという工夫も行なっている。

徒歩と公共交通機関を主な交通手段とするコンパクトシティーは、市民・学生の日常生活の利便性(アクセシビリティ)を高め、エネルギー消費の面でも、郊外に拡散した現代のまちに比較して効率的で、環境保全に貢献していたのである。また、「学都」は多彩な文化活動によって、中心市街地に活力と賑わいをもたらしていたのであり、今日の市内中心地への学生呼び寄せは、こうしたコンパクトシティーのメリットを再確認するものといえよう。金沢市での試みが成功し、他地域への波及効果が生まれることを期待している。

以上



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